シンベリン さいたま芸術劇場

蜷川幸雄さんの演出によるシェイクスピア・シリーズ「シンベリン」(さいたま芸術劇場)を観ました。俳優陣の頑張りで見応えのある楽しい劇になりました。

シンベリンは決して喜劇ではありません。むしろ欺かれた恋人たちの過酷な人生と、ローマとブリテン(英国)の戦争がリンクして、ドロドロとした救いのない話が続きます。ちなみに一度「子供のためのシェイクスピア・シリーズ」で観ていたので、ストーリーは知っていました。

なんか、登場人物がちょっとずつバカで(大バカ者もいますが)、「なんでそう簡単に信じるかな~」というシェイクスピアお決まりの展開です。完全に収集がつかなくなったところで、大型クレーンに乗ったジュピターが登場して、何やら預言を与えて、最後の15分ですべて丸く収まる大団円に突入します。

この話を飽きさせずに、バカバカしい展開に笑いを紛れ込ませ、力技で最後まで押し切れたのは演出家と俳優陣の力量でしょう。というわけで、各俳優の感想は以下。(敬称略)

阿部寛(ポステュマス) イノジェンの夫。立派な紳士ですが、ヤーキモーにコロっと騙されてすぐに復讐を決意するような、ちょっとおっちょこちょいなポステュマスを大真面目に演じて、さすがのさじ加減だと思いました。大きすぎて、大竹しのぶさんがぶら下がるように抱きついていました。

大竹しのぶ(イノジェン) シンベリン王の娘。可憐なティーンエイジャーを当たり前のように演じました。途中で小姓姿となって少年のように振舞うのも可愛い。「お姫様の大冒険」と言ってもいいシンベリンですから、陰の主役ですね。

窪塚洋介(ヤーキモー) ポステュマスとイノジェンを手玉に取る悪役No.1ですが、非常に魅力的でした。悪役が輝くと劇は俄然面白くなります。

勝村政信(クロートン) 王妃の連れ子。バカ息子をこれでもかとおバカに、かつ身を削って演じていました。登場するだけで笑いが起こるのはさすがです。

瑳川哲朗(ベラリアス、モーガン) 出番は少ないながら、存在感は大きいです。元貴族だが、今は粗野な漁師ってあり得ないとは思うんだけど。

浦井健治(ギデリアス、ポリドー) 本来は王位継承権第1位の王子。でも今は勇敢で気品を漂わせたただの猟師。ミュージカル俳優の浦井君が伝家の宝刀である歌と踊りを封印して臨んでいます。立ち姿が役どおりでした。

吉田鋼太郎(シンベリン) 勇敢で愛情深いブリテン王。でも後妻の王妃にいいように操られたアホな夫です。その存在こそが喜劇であり、振る舞いが悲劇となりました。

鳳 蘭(王妃) 悪役No.2。イジワルババアなんだそうです。(本人談とか。)でもカッコいいイジワルババアでした。

大石継太(ピザーニオ) ポステュマスの召使い。見た目は道化っぽいのですが、かなり重要な役回り。それぞれが濃い他の役と役を繋ぐ、貴重な緩衝材として良い仕事をしてました。

川口 覚(アーヴィレイガス、カドウォル) 王子の弟の方。蜷川さんの秘蔵っ子。滑舌滑らか、感情豊か。実力十分。王子が二人並ぶと、風格のある兄と思慮深い弟という感じ。逆はそれぞれキャラが違うから無理かも。

千葉裕之(ヴァイオリン)・北村健太(ギター/琵琶) 楽師として普通に存在して、普通に音楽家でした。